Column

「睡眠=休み」ではない。専門家が教える
ココロが少し楽になる最新の休養について 【休養学コラム 第1回】

休養の専門家が徹底解説 最新の休養の考え方

このコラムは、ココロヒトイキをご利用のみなさんに向けてお届けしています。休む必要はわかっているのに、自分のことになると後回しになる。少し休んでも、思うように回復した気がしない。そんな毎日を過ごしている人にこそ、いま知ってほしい“休養の最新の考え方”です。

今回、このコラムのベースになっているのは、休養学を提唱し、休むことの大切さを社会に伝え続けている片野秀樹氏のお話です。日本人の疲労や休養の実態を長く見つめてきた専門家の知見をもとに、ただ「休みましょう」と呼びかけるのではなく、忙しい毎日でも取り入れやすい“回復する休み方”を、わかりやすくお届けします。

仕事も、家のことも、誰かのこともあって、自分だけは止まれない。そんなふうに感じる日がある人へ。

このコラムが、あなたらしい“休養のきっかけ”になればうれしいです。


片野 秀樹(カタノ ヒデキ)

片野 秀樹氏

博士(医学)

一般社団法人日本リカバリー協会代表理事。

東海大学大学院医学研究科、東海大学健康科学部研究員、東海大学医学部研究員、日本体育大学体育学部研究員、特定国立研究開発法人理化学研究所客員研究員を経て、現在は博慈会老人病研究所客員研究員、日本疲労学会 評議員、日本未病総合研究所未病公認講師(休養学)も務める。日本リカバリー協会では、休養に関する社会の不理解解消やリテラシー向上を目指して啓発活動に取り組んでいる。著書に「休養学:あなたを疲れから救う」(東洋経済新報)、「今さら聞けない 休養の超基本 疲労ゼロを習慣化する」(朝日新聞出版)など。


はじめに|なぜ今、「休養」を学問としてとらえる必要があるのか

「休みたいのに、休めない」。それは意志が弱いからでも、セルフケアが下手だからでもありません。仕事、家事、育児、介護など、自分以外の優先事項が常にある人ほど、休むことに罪悪感を抱えやすく、さらに“休んでいるつもりなのに回復しない”という感覚に陥りがちです。

片野先生は、こうした状態を個人の根性論ではなく、学問としての「休養学」で捉え直す必要があると語っています。休養とは、単に止まることではなく、次の活動のために活力を回復・確保すること。つまり、休むことはサボることではなく、これから頑張る優先事項のための準備です。

実際、日本リカバリー協会の「日本の疲労状況2025」では、20〜69歳の78.5%が何らかの疲労を感じているとされ、「疲れている人(高頻度)」は46.3%で2017年以降、過去最高でした(※下記図表)。多くの人が疲れているのに、うまく休めていない。だから今、休養を感覚ではなく、知識として学ぶ意味があります。

図表:疲労状況(全体、年比較)単位:% 疲労状況の年別比較グラフ 出展:日本リカバリー協会「日本の疲労状況2025」調査データ

健康を支える三本柱は、運動・食事(栄養)・休養です。ところが、運動には運動学、栄養には栄養学がある一方で、休養は長らく「なんとなく大事なもの」として扱われてきました。その結果、日本社会には「休まないことが美徳」「休むのは甘え」という空気が残り、必要な人ほど休みにくい構造ができています。

そうした文化的な壁を越えるためにこそ、休養をロジカルに説明する言葉が現代は必要です。休養は、活動するための“活力”という資本を蓄える行為です。会社経営に資本金が必要なように、私たちの日常にも、働くための、支えるための、続けるための活力が必要です。“休養学”は、その活力をどう回復し、どう保つかを考えるための共通言語なのです。

第1章|休めない・休んでも取れない疲れには理由がある

「休養の必要性は分かっている。でも自分のことになると後回しになる」。現代のリアルは、まさにここにあります。自分が休むことで、仕事が止まるかもしれない。家族にしわ寄せがいくかもしれない。誰かを待たせるかもしれない。そんな責任感があるからこそ、休みたいのに休めません。

さらに厄介なのは、疲労と疲労感は同じではないことです。疲労感は“マスキング”できてしまいます。気合いや責任感で「まだいける」と感じていても、実際には活動能力が落ちていることがある。つまり、つらいと自覚した時には、すでにかなり消耗している場合があるのです。

日本疲労学会では、疲労とは「過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態」と定義しています。単なる気分の問題ではなく、能力が下がっている“状態”として考える必要があります。

だからこそ、「自分はまだ大丈夫」と思っている人ほど注意が必要です。休めない人が弱いのではありません。休めないまま頑張り続ける構造と、頑張れてしまう人の真面目さが重なって、疲れが見えにくくなっているのです。

第2章|休養は“寝ること”ではなく、“活力を回復・確保すること”

休養と聞くと、まず「睡眠」を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。もちろん、寝ることはとても大切です。しかし、休養学では「休む=寝る」だけではないと考えています。

休養の本当の意味は、「使い果たしたエネルギーを回復させ、次の活動に向けて、自分の心と体に“活力”という元手を蓄えること」です。

ここで大切なのは、“次に備える”という視点です。休養は、ただ動きを止めて何もしないことではありません。明日からの毎日を自分らしく過ごすために、コンディションを整え直す前向きな準備なのです。だからこそ、ただ横になることだけが休みではないし、「昨日はあまり眠れなかったから、もう回復できない」と落ち込む必要もありません。

実は現代では、睡眠だけに頼った回復には限界がきているというデータもあります。2025年の調査では、約5人に1人(20.9%)が睡眠時間5時間未満。さらに、全体の約4分の1(24.7%)の人が、「夜中に何度も目が覚めてしまう」「一度起きると、なかなか寝付けない」といった悩みを抱えています。

特に、強く疲れを感じている人の場合、こうした「夜中に目が覚めてしまう」割合は39.7%にものぼります。これは元気な人と比べると、なんと約5倍という多さです。

「ぐっすり眠りたいのに、体が休まってくれない」。そんな現代人にとって、夜の睡眠だけに頼るのではなく、日中にいかに上手に休養を取り入れるかという設計が、これまで以上に重要になっているのです。

休むことに「ちゃんとした理由」や「許可」がほしいと感じている方にこそ、伝えたいことがあります。休養は「甘え」ではなく、明日を頑張るための「自分への投資」です。

「疲れたから休む」のではなく、「頑張りたいから、先に休む」。この順番を意識するだけで、あなたの毎日をもっと楽にする「新しい休み方」が見えてくるはずです。

<第2回へつづく>


【参考・出典】